08.2.8 up

<無題転載> JMM (Japan Mail Media) '08.2.7より

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 『ロンドン〜スクエア・マイルから』            第97回    
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
関連記事
08.2.19

「低排気ゾーンと自転車」

 外出先から戻って鼻をかむとわかる空気の汚れ具合……、ロンドンにいたことのあ
る方なら経験をしたことがあることと思う。サイクリストがよくDIYの際に使うよ
うな大げさなマスクをつけているのにはそういうワケがあるのである。そう、ロンド
ンの空気は汚い。

 大都会でありながら、あちこちにある公園やガーデンは冬でも緑色の芝生が目にや
さしく、「グリーン」のイメージのあるロンドンだが、いやいや、まん延する排気ガ
スで欧州トップクラスのノン・グリーン都市だったりするのだ。

 リビングストーン・ロンドン市長は市内の交通渋滞緩和と大気汚染改善を目的に、
平日の市内に入る車に対してコンジェスチョン・チャージ(混雑料徴収)をスタート、その後、チャージ・エリアも拡大させているが、彼の他のマニフェストの一つが、広範囲にわたるLow Emission Zone (LEZ=低排気ゾーン)の導入。

 それが今週からスタートとなった。ロンドン市内のコンジェスチョン・チャージエ
リアを含む1600平方キロにわたるグレーター・ロンドンがLEZ。12トン以上
でEUの排出量規制にそぐわない大型トラックがこのエリアに入る際には一日200
ポンド(約4万2千円)の支払いが義務付けられるというもので、休みなしの365
日(今年は366日!)適用である。2010年までには、チャージ対象車が拡大さ
れていくという。

 実のところ、これだけのコストをかけてトラック規制をしても、ロンドンの空気浄
化および人体への効果は微々たるものだという試算がある。また、予想される徴収料
では初期投資やランニングコストをまかなえず、数年は赤字運営らしいが、それでも
環境問題を重視した長い目で見た投資・政策だとリビングストーン市長。

 道路税が、車のガス排出量に応じて高くなることもあって、ここ最近では低燃費で
環境にやさしいハイブリッド車などの売り上げが伸びているようだ。今後も政府はこ
ういった“エコ・カー”への乗り換え促進策として、さらに税優遇措置を導入してい
く意向とのこと。

 それでも高級大型車や四輪駆動車はリッチ層を中心に人気。四駆車にいたっては、
排気ガス問題のみならず、狭いロンドン市内では不必要に大きく、たとえば学校の送
り迎えには不向きであり危険でもあると、何かとやり玉にあげられている。もちろん
リビングストーン市長はこれらも標的にし、こういった排気量が多い車に対しては、
コンジェスチョン・チャージを一日25ポンド(約5千3百円)に引き上げる予定で、道路税負担とともにプレッシャーをかけ、エコ・カーへの切り替えを促そうとしている。

 しかし、そこはリッチピープル。ちょっとした出費が増えたぐらいにしか考えない
人も多いらしく、思ったほど成果がないとも言われている。こんなところでも、生活
レベルの格差がさらに明確そして拡大しているのだが、こうなると意識の改革が必要
である。

 さて、ともかく、車の利用は必要最低限にということで、また割引のきいたオイス
ターカード(イギリス版 Suica)の普及で公共交通機関を利用する人が増えたが、自
転車での通勤族もずいぶん見かけるようになったロンドン市内。ただ、いわゆる「買
い物チャリ」ではなくて、マウンテンバイクタイプの、前のめり型自転車で、かつヘ
ルメット着用なので、どうも準備段階でへこたれてしまい私の自転車デビューはまだ
である。

 また、どうもロンドンでの自転車通勤には強靭スピリッツが必要というイメージが
できてしまっている昨今。何しろ、サイクリストと車が並行して走りながらF-Word
(非情に下品なののしり言葉)連発で口論しているのを目の当たりにし、道を横切ろ
うとすれば自転車の女性から「Watch out!」と怒鳴られ(「気をつけて!」というよ りも「邪魔よ、あんた!」と訳したい乱暴さ)…。前方を走る自転車のせいでスピードが出せないバスは、イライラを隠せずにアクセルを小刻みにふかす有様。乗客までがサイクリストをにらみつけていたりするから恐ろしい。

 さらに、日本と違って自転車が歩道を走ることはできず車道走行である。上級サイ
クリストに煽られながら、モーターバイクと戦い、車と戦いながら、あの交通量の多
い大きな交差点をつっきるのか!と思うと、普段、車の運転席から危なげなサイクリ
ストを見ているだけに恐ろしくて仕方ない。

 友人はサイクリングレッスンを受けていたが、それでも「命がけ」には違いなく、
ロンドン市内のオフィスまではとてもじゃないが無理だと断念。結局、ペーパードラ
イバーに近い、“たまの週末サイクリスト(しかも近所エリア限定)”に徹している。

 また、自転車泥棒が多いので、駐輪する際は大きな施錠でくくりつける必要がある
が、自転車族が増える一方で市内の駐輪用バーの設置が追いついていないのが現況で
もある。環境の変化が思ったよりずっと早いのではという危惧がある中、人間側の対
処をもっとスピードアップしないといけないのかもしれない。

----------------------------------------------------------------------------
丸國 葉(まるくに・よう)
外資系銀行・東京支店勤務を経て、1998年渡英。MBA取得後、ロンドン金融機関にて勤務。個人サイト <http://yomarukuni.livedoor.biz/>。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
JMM [Japan Mail Media]                No.465 Thursday Edition
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【発行】  有限会社 村上龍事務所